「『…というわけで、君達の力を借りたいんだ。』だってさ」
「迷う必要もないな。すぐに準備をはじめるぞ」
「ね、王様が私達の助けを必要とするなんて、何かあったのかな」
「へーきへーき。くわしくは会ってから話すって書いてあるし、そんなに深刻じゃないって」
「よくそんな難しい言葉を知ってたな。ああ、確かに深刻なのは続きのほうだ」
「はあ?なんだよ、それ」
「はいはい、喧嘩はあと。それで、続きってなんて書いてあるの?ね、ソラ、読んでみて」
「あ、うん」
「『ところで理想は持っているかい?ミ二ーが言うには理想を持つのはとても良いことなんだって。
 僕にも理想はあるけれど、叶っている理想は理想じゃないって言われてしまって…』
 ごめん、長そうだからパス」
「相変わらずだらしないな。王様からの手紙なんだぞ?」
「ならリクが読めばいいだろ。んでさ、カイリの理想ってどんな人?」
「理想、かあ。そういえば、考えたことないかも」
「考えてよ、なんでもいいからさ。えーと、たとえば、あれだよほら」 
「自分にとって一番であること。つまり、カイリが特別好きだと思うやつが理想ってことだ」
「そっか、なるほどね。それなら、ずっと昔からいるよ」
「うん、知ってる。で、誰?」
「おとうさん」
「え?(俺達じゃないの?)」
「は?(俺達じゃないのか?)」
「おもしろくて、頼りになって、やさしくて。私の理想だよ」
「そりゃあ、村長さんはかっこいいけどさ。でも納得いかないよなあ」
「いいじゃない、理想はあくまでも理想。いつか叶えばいいなあってことなんだから」
「へえ、カイリにしては珍しいな」
「え?」
「いつもなら、もっとはっきり言ってる。秘密にするなんて子供みたいだな」
「ふうん。そういうリクも、秘密を聞きたがるなんて、ずいぶん子供っぽいと思うけど?」
「ほらな。結局、俺達には教えたくないってことだ」
「あ、すっごいずるい誘導」
「ずるいのはカイリだろ。なあ、なんで教えてくれないんだよ」
「だって、叶ってたら理想っていわないんでしょ?だから、ずっと内緒だよ」
「どうしても聞きたい。カイリの理想を知りたいんだ。俺は、カイリの理想になりたい。
「そう頼んでほしいんなら、いくらでも言ってやるさ。もっとやろうか?」
「もう、リクってすぐずるい言い方するんだから。んー。じゃあね、交換条件ってのはどうかな」
「パーレイ!いいよ、取引しよう」
「それ、何かの呪文か?」
「海賊の掟。船長と交渉したいときに使う言葉なんだ」
「ちょっと待て、いつからおまえがハイウィンドの船長になったんだ」
「そっちこそ待てよ。船の名前はまだ決まってないだろ」
「勝ったほうが名前をつける、そういう約束だったろ。いまさら蒸し返すつもりか」
「蒸し返してるのはリクだろ。それに、作り直すんだからとーぜん勝負はやり直し」
「俺は別に構わない。いいさ、好きなだけ勝負してやるよ」
「言ったな!絶対負けないからな!」
「じゃあ、ソラ船長かリク船長か、私が審判してあげるね。何回でもいいよ」
「ちょっとたんま。カイリ、もしかして逃げようとしてるだろ」
「へへ、やっぱりバレてた?」
「そうはいかないぞ。んでさ、どうすれば教えてくれる?」
「じゃあ、一緒に歌ってもらおっかな」
「なーんだ、簡単じゃん。俺達にまかせろって」
「決まりだね。じゃ、私に続いてね。
 『なにを待っているのか わかって あげて♪』」
「『あの子の目をみて おはなし やめて♪』」
「な、おい、そんなの、歌えるわけないだろ」
「はい残念。教えるのはなし、だね」
「もー、なにやってるんだよリク。音痴なの、まだ気にしてるわけ?」
「悪かったな、音痴で」
「ね、リクって、変なところで恥ずかしがるよね。どうしてかなあ」
「カイリ、わかっててやっただろ」
「さあ?なんのことか、さっぱり」
「わかった、降参する。カイリが行きたいところに連れて行ってやるよ」
「そうそう、歌ならいつでも歌ってあげるからさ」
「やっぱり、バレてたんだ。ソラとリクは、なんでもお見通しなんだね」
「あたりまえだろ。カイリのことなら、なんでも知ってる。そうだ、きのこ食べれるようになった?」
「残念ながらまだだ。この間だってこっそり残してたくらいだからな」
「もう、そこまでお見通しじゃなくてもいいの!」
「だいじょーぶ、そこはわかってるって。時計塔だろ?あそこから見える光、すっごくきれいだもんな」
「ばか、おまえが行きたいだけだろ」
「ソラとリクが一緒なら、どこでもいいよ。でも、一緒じゃなきゃどこにも行きたくないからね」
「知ってるさ。カイリは一人にしておくと、危なっかしいからな」
「でもさ、はぐれちゃったらどうしよう。俺、探し回るのはもうやだよ」
「待ち合わせ場所を決めておけばいい。俺だって泥沼になりたくないからな」
「じゃあ、駅にしよう。電車ですぐだし、誰も迷子にならないよ」
「その電車がなかったら?」
「歩けばいいんだよ。電車はなくても、線路まで消えるわけじゃないから」
「それも、途中で切れちゃったりして」
「やけに心配性だな、ソラ。おまえらしくないぞ」
「駅って、あんまり好きじゃないだ」
「ソラが好き嫌いするなんて珍しい。どうしよう、明日は雨かも」
「そうだな。傘の用意を忘れるなよ」
「うん、準備しておく」
「なんだよ二人とも。勝手に苦しくなっちゃったんだから、しょうがないだろ」
「苦しいって、どこか具合、悪いの?」
「違うって。あのさ、変かもしれないんだけど、お別れしたみたいだったんだ」
「うん、わかるよ。私もハイネ達と離れるのは辛かった。だから、会いに行こうよ。ね?」
「それもあるけど。俺さ、リクとカイリに二度と会えないかもしれない、って思ったんだ」
「おおげさだな。まだ待ち合わせるって決めただけだろ。
 大体、ソラの予感があたることなんてめったにないんだ。安心しろよ」
「あっはは、そうだよな。ちゃんと会えたし」
「それに、大丈夫。ソラとリクがどこにいたって、隠れてたって、必ず見つけてあげる」
 やや沈黙。
「あ、あのさ、カイリ、それって」
「頼む、それ以上言うな。先を越されるわけには」
「だから、二人とも迷子になってもうろうろしないこと。わかった?」
(なあ、俺達が迷子にされてる?)
(わかってるんなら黙ってろ)
「りょーかい。カイリを待ってればいいんだね」
「なるべく早く見つけてくれ。待つのは苦手だからな」
「まかせて。絶対に見つけてあげるんだから」
「さ、準備準備。えーと、なにがいるんだっけ」
「やる気は持ったか?」
「最初からあるって!リクこそ、キーブレードは忘れるなよ」
「おまえじゃないんだ、そこまで忘れっぽくないさ」
「ほら、カイリも準備しなきゃ」
「私は準備万端。大切なものだけ持っていくからね」
「そのお守りだけでいいのか?重いなら持ってやるから、ちゃんと言えよ」
「ありがと。でも、もう持ってもらってるからいいの」
「うっそだあ。俺、なんにも預かってないよ」
「しょうがないよ。ソラだけに見えないものと、リクだけに見えないものだから」
「あててやろうか。最初はり、最後はうで終わるものだろ」
「えへへ、教えないよーだ」

 

  • 07.07.12