夜も半ばを過ぎ地下の部屋は冷たい静けさにひたっていた。サイクスは小さな呼吸が聞こえるほうへ目をやる。
カイリは瞳を閉じているだけのようにも見えた。元々、近頃は眠りが足りない。
固いベッドに仰向けに横たわる体からは力が抜けていて、放り出された細い手足はますます頼りない。
伏せられた絹のようなまつげが作る影は薄暗く、胸がゆっくり上下していなければ死体と変わらなかった。
だが影ばかり浴びて白さを増した肌の下には確かに血が通っている。
赤い唇からこぼれる静かな吐息や、やわらかさの感じられる体の線は、サイクスの血を余計に昂ぶらせるのに充分だった。
サイクスはふと、カイリが夢を見ているのかを考えた。
唯一自由になる夢では、明るい場所を歩いているのだろうか。
その考えはすぐに捨てられた。そう思いやること自体無意味だった。生かすも殺すも、もはや自分の意志一つで決まる。そういうカイリがどんな夢を見ていようと構わなかった。



サイクスが無造作に手を伸ばすと、カイリの浅い眠りはすぐに覚めた。
飛び起きようとする小さな体を慣れた手つきで押さえつける。
重くのしかかられ細い手首をまとめられてしまっても、カイリは首を振るばかりだ。
「やだ、やだってば! 離してよ、このっ、ひきょうもの!」
サイクスは呆れて溜息をついた。相変わらず手間が掛かる。
「仕方のない奴だ」
「んんー!」
合わせられた唇からカイリの声にならない叫びがもれる。
逃れようと顔を背けるのを、サイクスの大きな手は許さなかった。引き戻す度により深く口付ける。
わざと呼吸が出来ないように舌を絡めてやると、やわらかな唇は新鮮な空気を求め、自分から支配を許した。
呼吸が混ざり合い、どちらのものか区別がつかなくなっていく。生温かい舌先が唇をなぞり、口腔を貪った。
歯茎の裏に触れられる感触はカイリから抵抗する力を難なく奪っていく。
少しずつ強張りが解けていくと、サイクスは服の前を開き、かたい指を小さな体の上から下へ向けて這わせた。
びくりとするカイリの様子も気に止めず、サイクスが知る感覚の鋭い場所、張りのあるふくらみの頂に爪の先をかすらせたり、あばら骨の合間を指の腹でえぐるようにしてやった。
反応がすぐにてのひらに返ってくる。下腹へ近づくほど反応は激しくなった。
「やだっ…!」
恐ろしさから、カイリはサイクスの体を押しやろうとする。
だが覆い被さっているサイクスの体は重く、とても持ち上げられそうにない。
うるさいとでも言うように脇腹にかたい指が食い込み、痛みではない感覚にカイリの華奢な肩がすくむ。
なのに一方では体の奥が熱くなりはじめ、じっとしていられない。
特に敏感な箇所は既に湿った熱を伴っていた。サイクスがかるく指に力を入れる。
「や、いや…、やだあ」
表面に触れられカイリは拒絶の声をあげた。再び口付けられそれ以上は体の外に出られなくなる。
かすむ視界でどうにかサイクスを見上げたカイリは息を呑んだ。
錆びつき千切れるのも時間の問題であろう鎖に繋がれた、獣のそれのような目が、カイリを動けなくさせる。
サイクスは簡単に力の抜けた膝を割ることができた。つうっと白い太股に指の背を滑らせるとカイリは唇をかみしめ耐えようとする。かたい指の生々しい冷たさを中で感じ、カイリは反射的に体を硬くした。
「力を抜け。それくらいは出来るだろう」
答える代わりにカイリは顔をそむける。サイクスはかるく息をついた。
「あっ…!」
熱い息が直接かかりカイリは背をのけぞらせる。
時間をかけてサイクスが舌を差し入れていくと、溶けかけていたのが更に熱くなっていった。
特に過敏になっている箇所を形の通りに舐め上げ時折歯で挟んでやった。
あまりに強い刺激に、カイリは声も出せないでいる。それでもサイクスは緩めることなく続けた。指先で押し広げながら内側からあふれようとするものの手助けをしてやる。
小さな手が震えながらサイクスの額を押し返そうとするが、それは添えられているのと変わらなかった。
「やあ、あ、ふっ、あ…!」
淫らな音と共に外に流れ出てくるものがカイリをもっと溶かしていく。
流し込まれた唾液と吹きかけられる熱い息が痺れに似た快楽をもたらし、カイリを揺さぶった。
生温かい舌は奥も入り口も分け隔てなくなぞり、それが際限なく繰り返される。経験したことのない刺激にカイリの肌は粟立ち、太股を覆う透き通る白い肌も女の色に染まっていく。
「っ…!」
カイリが苦しげな声と共に胸の奥にある息を短く吐き出してから、ようやくサイクスは身を起こした。

ぐったりした体の下に両腕を差し入れ自分の方へ抱き寄せる。
体に残るほてりのせいで途切れがちに呼吸をしているカイリは、サイクスの厚い胸板によりかかっているのに逃れることもできなかった。
指どおりのよい髪に隠れた細い首筋に鼻先をもぐらせると、サイクスは前置きなしに歯を立てた。以前つけたまだ新しい痕が、もう一度真新しくなる。
カイリはくっと小さくうめき、支えを求めるようにサイクスの鍛えられた肩に額を置いた。
軽い。こうしていればカイリの骨の細さが手に取るようにわかる。
サイクスはうっすらと上気した首筋の肌の上を血管に沿って舌でなぞっていく。
舌が触れる熱さとそれが過ぎた後に残る冷たさが、カイリに切なげな声をあげさせた。
「覚えているか。おまえは俺を恐れていたはずだ」
はっとして体を離そうとするカイリのうなじを強い力で引き寄せる。
指で顎を上向かせ唇を合わせた。サイクスの執拗な舌はカイリの拙く逃げようとする舌を易々と絡め取る。
言葉もろとも押し返され、唾液を流し込まれた細い喉がこくりと鳴った。
「それが今はどうだ、おまえは俺を貪欲に欲しがっているがな」
「!ちが、ちがう、ちがう…っ」
子供のように首を振りながら、サイクスの指が体の中に侵入してくるのを、カイリの体は為す術もなくただ受け入れている。
ごつごつとした指の節がこすれるたびに、胎内の奥がうずいているようだった。
息を詰め震えているので、無造作に指を増やしてやる。苦しげにあえぐ唇から甘い吐息がもれた。
「どこが違う。ああなるほど、望んでいないとでも言いたいのか」
ぬるりとしたものがサイクスの指に絡む。それがますます指の動きを誘い、次の刺激を与えていった。
「ぜんぜんっ…ちが、ぁあっ、はっ」
つまらなそうに鼻を鳴らすと、サイクスはいきなり腕に力を入れた。
サイクスにぴったりと頬を寄せているのに気付いたカイリは、慌てて腕で体を支えようとした。けれど、いくらがんばっても力が入らない。またうなじを押さえられ唇を奪われる。
はっと紺碧の大きな瞳が見開かれた。
堅く充血したサイクス自身を押しつけられ、下腹からぞくりとしたものがのぼってくる。
「んぅ、はぁ、ん…っ」
貫かれるのとは違う、擦れ合うだけの感覚にカイリは戸惑った。
濡れそぼり潤んでいるところにねっとりと絡まれ、いたずらに感覚を刺激される。
カイリが息を吐き出そうとすれば、胸に手が伸びてきて自由にさせてくれなかった。
頂をかたい指でつぶされ、てのひらできつく掴まれた後は思いがけなくやさしい愛撫が待っている。
カイリは小さな背中をどうにか丸めてあえいだ。たくましい体に覆われながら、その上大きな熱い手に全身を包まれているようだった。
うっすらと汗ばんだ背中をひっかく指は、カイリが少しでも逃れようとすれば腰を上から押さえつけた。
ゆっくりと入り口が押し開かれているのが目をつぶっているカイリにもわかる。粘膜同士がこすれるねばついた音が鼓膜に届き、カイリの目から涙がこぼれた。
「なら何を望んでいる。おまえの口から聞かせてみろ」
底に煽る響きを持ったサイクスの抑揚を抑えた低い声がカイリの耳元でささやく。
「だ、からっ…な、あぁ、んにも…ふっ…」
閉じられたまつげが耐えるように震えている。
拙く呼吸を繰り返し上下する胸から感じやすい肌の薄いところへと手を動かし、爪の先を引っ掻ける。
少し前と比べればごく軽い部類の動作にも、カイリは辛そうに吐息をもらした。
それを間近で見ながら、サイクスは舌先で耳朶を弄ったり、額に張りついた髪をかきあげてやることしかしなかった。
その間も火が付いたように熱い場所は焦れったくこすられるだけで、カイリの小さな体は溶けてしまわないのが不思議なほど焼かれていた。
サイクスの胸の前で所在なげにしていたカイリの小さな手が動こうとするが、まるで思いとどまったように握りしめられる。
「さあ、言いたいことがあればそのうるさい口を使ったらどうだ」
「や、やだっ、なんにもない、ってばっ…」
カイリの頬が羞恥に染まる。その様を、サイクスは眺めていた。小さな背中に回している腕に、息が出来る分だけを残し更に力を込める。
触れ合った肌から、やわらかくつぶれた胸の奥にある鼓動が直に伝わってきた。サイクスの鼓動もカイリに伝わっているのだろう。
短く浅く繰り返す呼吸の下で、カイリは一生懸命別のことを思おうとした。それでも身動きのとれない状況では、意識が熱い部分へ、熱く脈打つサイクス自身に引かれてしまう。
鼓動と同じリズムを、カイリはぼうっとする頭の中で強く感じていた。
ちょっとでもサイクスにこすられる度に、心細さに目の奥が痛む。体が自分のものではなくなっていく感覚と、それに全てを任せてしまいたいという欲求がカイリの中で膨らんでいる。
サイクスが触れるだけの口付けをすると、カイリの赤い唇はたまらない切なさを覚えた。
「はぁ…、あ、あっ」
拙くはあるが少しずつ腰を動かしはじめたカイリに、サイクスはかすかに目を細めた。
こすれる度にカイリの中でもどかしさが増していく。
痛いくらい熱く敏感なところが外からの刺激を受けると、それは少しだけ和らぐようだった。
すすり泣きに聞こえるあえぎが色を帯びていくのを聞き、昂ぶった血がより熱くなっていく。
「いくら装おうがおまえは所詮ただの娘だ」
刻みつけるように言うと、小さく開き差し出すようにされたあたたかな舌を受けとめてやる。欲しがる以上に舌を絡め注ぎ込んでやる。
自分でこすり合わせるだけは到底足りないが、サイクスが指を添えてやると途端にカイリはいっぱいにされた。
小さな芽をえぐるような動きと押し開かれた場所にあてがわれる熱に、カイリの体が脱力する。
深く合わせた唇から、色を帯びたもどかしそうな声がこぼれた。

肩を押されカイリは後ろに倒れる。背中の下はベッドだったからいいものの、かなり乱暴といっていい。
すると、紛れもない憎悪が紺碧の瞳に浮かんだ。
重くのしかかるサイクスをにらむ瞳の険しい光は、はだけた服の下にある上気した肌と雰囲気が全く違った。
その光は瞬時にサイクスの体にしみこむ。
小さな体の芯に、サイクスはゆっくりと大きな体を沈めながら押し入った。
「く、ぅっ…!」
体の半分が貫かれる感覚に、カイリは歯を食いしばって耐えようとした。
太い縄に内側から肺を締め付けられる感覚は幾度繰り返されてもカイリに拒絶反応を起こさせる。
それはサイクスの欲しいものに等しいといってもいい。
痛みと苦しみが混じった表情と、荒い息遣いが知らせる肉体の悦び。
サイクスは熱く絡みつくカイリの中をゆっくりと味わいながら、カイリの視線をこちらに向けさせた。
かたい指がすべらかな肌に食いつき、小さな体を引き寄せる。
「あっ、や、やぁあっ」
体のより深くまで押し入ると高い声があがる。頼りない腕が顔を隠そうとするのをサイクスは押さえつけた。
声を出さぬようにするやわらかい唇を舌で押し割る。
あえぐ声が、小さな体の中に渦巻く熱と共に吐き出された。
尚残る快楽の泡立ちを逃そうとカイリは首をのけぞらせる。それをサイクスは逐一丁寧に、薄く開いた唇の中へ還してやった。
「カイリ、おまえの目が見ているものはなんだ」
カイリの吐息を近くで受けながらサイクスは淡々とつぶやく。
「光か、それとも故郷か。…どれも違うな」
「はぁ…っ、んぅ、ふぁ、あっ」
嘲りを聞いているのが見て取れる証拠は、瞳に宿った強い意志の光だけだった。
それもサイクスが無造作に小さな体を突き上げれば明滅し、儚く消えてしまいそうになる。
「その鳴き方はどこで覚えた。世界を支える務めを負う者が呆れたものだ」
冷ややかに突き放しながら深く唇を合わせ嗚咽を取り込む。肉同士を打ち付ける間だけ生じる生身の感情は、かすかに甘い。
と、カイリは気力を振り絞りサイクスの唇に犬歯を立てた。
カイリのささやかな抵抗はお互いに鉄錆に似た味を分け与える。
血が少しついた唇を離したサイクスは、ほんの一瞬カイリを冷たい目で見つめると、それまでしていた手加減をあっさり放棄した。
「ふあぁ、あ、あぁ!」
小さな体が滅茶苦茶に、奥深くまで突かれる。
心臓の上に被さったてのひらに、皮膚を突き破るほどの闇雲な力が込められた。鮮明な赤が爪の間ににじむ。
その痛みがなければカイリの魂は簡単に喰われてしまっていただろう。
押し殺したような吐息やカイリを欲する大きな体の熱さは、人のものではないようだった。
体の芯をかき回されカイリの背が大きく跳ねた。それでもサイクスは自身を打ち付ける力を緩めない。
カイリのお腹の中にあった、ひとりでに浮かんでしまうような不安定な感覚が、いよいよ強くなる。外へとはじけてしまいそうだ。
意識が端から混濁していく感覚に、カイリの手は支えを求めて手近にあったシーツを握りしめた。

襲い来る激しい快楽の怖さにカイリはとっさに目を閉じたが、いつまで経っても終わらない。心臓が受けきれないほど血を巡らせているのを感じながら、そうっと目を開けた。
薄暗い室内の中には男と女の気配が濃厚に漂っているが、今はなぜか不自然に離れている。
無意識のうちにカイリは腕に力を入れサイクスから距離を置こうとした。
だがすぐに力尽き、再び倒れ込んでしまう。背中を丸めたカイリの細い腕が、自分の体を抱いている。
「ん…く、うっ……」
カイリの指は心細げに何かを探しあぐねていた。
指がたった今まで男を受け入れていた場所に近づいては離れるのを繰り返す。濡れた白い内腿の付け根にうずく熱はカイリの手に余った。どうすればいいか、全くわからない。
しばらく静観するつもりだったサイクスは、これでは埒が明かないと早々に察しをつけた。
「来い」
口調はあくまでも静かだ。かけられた声に小さな背中がびくりとする。
カイリは気力を振り絞って勢いよくサイクスを振り向くが、すぐに視線をそらしてしまった。服を着ていない上半身は簡単に見慣れるものではない。
熱を植え付けられた女の表情の合間に、年相応の恥ずかしがる表情が見え隠れしている。サイクスは何度目かわからないため息をついた。
強引に腕を引っ張られ、カイリはサイクスのそばに力なく転がる。
それから有無を言わさぬ力で顎と後頭部を支えられ、堅く引き締まった腿に頬を載せられていた。
鍛えられているのがごわつく服の上からでもわかる。体に駆け巡る熱を少しでも冷ますために深く息を吸おうとすれば、カイリの中はサイクスのにおいでいっぱいになった。
かき消すために頭を振ろうとしたカイリは、ふとすぐ目の前にあるものに気付いて、口の中だけで悲鳴をあげる。
サイクスはそこでほんのかすかに笑ったような気配を見せた。
「口を開け」
「やっ、いや、なんで…っ」
「おまえの苦しみを終わらせてやる」
「そ、んなのっ」
自分でなんとかしてみせる、と言おうとしたカイリの口の中にむせかえるようなにおいが流れ込む。
サイクスのものと組み合うように混ざったにおいに、カイリは顔を背けようとした。が、がっちりと顎を押さえられているし、もう逃げる体力もない。
それに、たまらなく体が辛かった。熱があるときのように息がしづらく、早く楽になりたくて仕方ない。
カイリは自分が太股をこすりあわせているのも知らないのだろう。
わざと半端にされたせいで、カイリの体は熾に埋まっている状態だった。風を送ってもらわなければ燃えることもできない。
においにくらくらしはじめたカイリの唇が、わずかに開いた。
小さい頭を引き寄せ、自身をやわらかい唇に少しずつ含ませていく。
最初はまごついていたカイリも、しばらくするとおずおずと舌を使い始めた。そうすることで辛さを紛らわせたかったのかもしれない。
小さな両手を添えながらゆっくりと唇を落とし、昂ぶりを慰めるようにカイリは舌を這わせる。
カイリのやり方は全く拙い。だがやわらかい唇からもれる熱い吐息は、サイクスを形ばかりだが満足させた。
前置きもなく髪の中に手を埋めると、押しやりあたたかい口全体で咥えさせる。
「んーっ! んむ、んぅー!」
カイリは驚きくぐもった声をあげた。
「そう、だ。喉を開いて奥まで咥え込め」
唾液が唇からあふれ出る。あたたかい唾液にまみれると一層五感に訴えるものがあった。
とろりとしたものがカイリの内腿を濡らしている。もうすぐ弄られるだけでは飽き足りなくなるだろう。
一度そういう闇の淵を覗けば引きずり込まれて二度と戻ることはない。カイリの墜ちゆくその先を、見届けてみたい気持ちがサイクスにはあった。
サイクスは一息に溜めていたものを出す。 喉の奥に絡まる苦い味にカイリはむせた。
すぐにでも吐き出してしまいたいのに、サイクスが手を緩めてくれる様子はない。
懇願するように見上げる瞳に、サイクスはにべもなく言い放った。
「飲み込め」
カイリの目の前が悔し涙でにじむ。頭を押さえつけられたままでは呼吸もままならない。
嫌悪感をこらえ喉に流し込みながら、カイリは涙が出るほど悔しかった。
白い喉がゆっくりと上下するのを確かめると、サイクスは腕から力を抜いてやった。
ひとつ大きく息を吸い込んでから咳き込むカイリの背中が小刻みに震えている。
淵の底は、見えただろうか。

「はぁっ、あぅ、ああ…!」
カイリの甘ったるい嬌声は抑えがきかないようだった。
サイクスが自分のいいように動けば、うつぶせの背中が快楽に打ち震える。
まだ未成熟といっていい体に生まれた熱と昂ぶりの間で、カイリは溺れようとしていた。全身で受け取った刺激が手足の先にまで流れていく。カイリの体は、サイクスの手によって変化させられようとしていた。
サイクスのてのひらが爪痕の残る白い胸を覆うと、カイリは涙をこぼした。
「俺が憎いか」
カイリは答えられない。
二人は絡むのが自然だったように馴染んでいて、互いに動くほどにまたよく絡む。
「ふあっ、ん、んん…!」
左肩を掴んで体の向きを変えさせると、中をぐるりとこすられたカイリは甘くあえいだ。
白い胸にはサイクスがつけた痕がくっきりと残っている。
癒えるのを待つ痕は場違いに咲いた花のように美しかった。
腕を回し反った白い喉を引き寄せると、唇で儚い花をまた咲かせる。掠れた吐息が聞こえた。
少し肌寒い部屋にいるのに、互いの汗ばんだ肌が張りつく。
限界以上に受け入れている小さな体は揺すられる度に震えた。
濡れた音を立てるところを指の腹で弄れば、カイリは意識せずにサイクスを締め付ける。やわらかくまとわりつかれながら、徐々にサイクスの呼吸が早まった。
脚を更に押し広げさせると己を深く沈めていく。
きつくなる動きにカイリの体は悲鳴をあげているようだった。意識が激しい流れに呑まれていく。流れの中は快い感覚に満ちているのに、全身を覆われ息ができなってしまうのだ。
「…っは、あ、あぁっ!」
お腹の中心が一際熱くなって、カイリの意識は吹き飛ばされるように地を離れ浮き上がった。
サイクスの腕の中でカイリはがくりと力を失う。一度大きく跳ねた体は荒い息遣いで全身を蝕む与えられた快楽を散らそうとしていた。
それも体に残る重い疲労感のせいで上手くいかない。カイリの大きな瞳が悲しそうにくもる。
サイクスは腕に抱えた身動きする力も残っていない小さな体を横たえた。
紺碧の瞳がこちらへ向けられる。かすかだっだが光はまだそこにあり、輝きを失っていなかった。
サイクスは溜息をつくと、簡単に折れてしまいそうな鎖骨のくぼみを指先でなぞってから、カイリのまぶたをかるく押さえた。
カイリはわずかに身じろいだが、重たい疲れに後押しされるように、残っていた意識もゆっくり沈んでいく。
静かな寝息が聞こえてきてもサイクスは離れずにとどまっていた。
それに、サイクスが動いてもカイリの眠りは覚めそうになかった。それほどにカイリの眠りは深い。
ふとまたカイリが見ている夢を考えた。最後まで自分を見つめていた瞳は憎む夢をみるのだろうか。
下らないことを思ったとサイクスの口元がかすかに失笑する。
だがこの深い眠りの傍を離れる気は、ふしぎと無かった。

 

  • 09.05.16