数歩離れた距離の空間の一部分に渦が作られ、中心に人影をうつす。
うつむいていたデミックスが顔を上げると、耳の端が重くなった空気を感じ取った。
開かれた闇の回廊からわずかな空気の流れを伴い姿を現したのは、案の定サイクスだった。
「あ、おかえりー」
本人の気質が一層拍車をかけている無愛想な男相手にも、デミックスは明るく手を振ってみせる。
無視され目の前を素通りされようとも気にならなかった。
物事をシンプルに捉えるデミックスが、腹を立てることはあまりない。
「今日も任務おつかれさん。ところでさ、それなに? もしかしなくてもお土産?」
サイクスが脇に抱えるものを指差し、不審を込めて尋ねる。
「お前には関係ない」
「なんだよ、ケチくさいなあ」
剣呑な視線を向けられても、デミックスは少しも気にしなかった。
それよりも彼が脇に抱えているもののほうが気になって、進路をさえぎる。
「うわあ、かっわいいー」
白い喉をそらせ意識を失った少女のかすかに開いた唇から、白い歯がのぞいている。
つい状況を忘れ、デミックスはどこか苦しげにも見える表情をした少女に見入っていた。
(ちょっとでいいから、起きないかなあ)
不躾極りないことだが、いますぐこの少女を揺り起こしたい衝動に駆られる。
この子と喋れたら楽しいに違いないという予感が思考を占めていた。
耳が、声を聞きたがってきかないのだ。あるいは記憶がそうさせているのかもしれない。
「邪魔だ。これは後で使う」
「使うー?」
にべもなく吐き捨てたサイクスの言葉に、納得したデミックスが指を鳴らす。
ややこしい話は覚えられなくても、女の子の名前ならすぐに覚えられた。
「へえ〜、この子なのかあ。そういうことなら、俺が面倒みとくよ」
いそいそと細い体を受け取る。
「別にいいだろ? 大体、サイクスに任せたら大変なことになりそうだし」
表情を変えないサイクスに、カイリの乱れた髪を直してやりながら非難の目を向ける。
自分の肩に頭をもたせてやりながら、長い溜息をついた。
よくもまあここまで手荒に連れ帰れるものだと呆れるしかない。
「好きにしろ」
横をすり抜け 去っていく背が低く答える。デミックスのよく働く耳は、もちろん返事を拾っていた。




膝の上の重さが心地良い。
自分の膝を枕にしている少女の髪に指を絡ませながら思う。
(早く起きないかなあ)
寝顔を見ているのも悪くないが、正直退屈でもある。
その退屈を紛らわそうと、膝の上に散ったつややかな髪を、長い指に巻きつけては離すことを繰り返した。
が、それもすぐに飽きてしまう。
デミックスは気付かずに、髪の一本が絡んだまま腕をもちあげてしまった。
人差し指を半分に断つかのように赤い線が引かれる。
「ん…」
大きな瞳がまばたきをし、まっすぐこちらを見た。
「あ、起きた起きた。おっはよ〜」
「…っ!」
満面の笑顔でのぞきこまれ、紺碧の瞳が硬直している。
膝から飛び退ったカイリを、デミックスはにこにこしながら見守った。
「怖がんなくてもいいって。ここにあのこっわ〜い人はいないからさ」
警戒しているのか、細い肩に妙に力が入っていた。
無理もない。なにせいきなり連れてこられたのだ。 それに、サイクスが穏やかな手段を使うなど考えられない。
カイリの境遇をしみじみと哀れみながらデミックスが続ける。
「で、カイリの面倒は俺がみることになったから」
「………」
中々警戒を解いてくれようとしない。それどころかますます距離を取られている。
きつく睨みつけてくる視線はまっすぐデミックスに向けられていた。
「あ、あのさ、そんなににらまなくても…」
「………」
事態は好転しそうにない。なぜかこちらの顔を凝視したままのカイリに後ろ頭をかく。
「うーん困ったなあ。カイリとは仲良くなりたいんだけど、だめ?」
なだめてみるが、より身構えられる結果に終わった。
がっくりとデミックスが肩を落とす。せめて声だけでも聞かせてもらいたいのに、口をきいてもくれない。
「とにかくさ、こっちおいでよ。ほら、座って座って」
まずは打ち解けるのが先決だと腰かけているベッドをぽんぽんと叩く。
「………」
何かに引き寄せられるように、すがるような色を瞳に浮かべたカイリが一歩踏み出す。
これはデミックスにもかなり意外だった。
(あれ、眠いのかな?)
けれど、はっと夢から覚めたように首を振るとまた壁際まで下がってしまった。
これでは埒が明かない。
うーんとまた考え込んだデミックスは、ようやく重大な見落としに気づいて手をぽんと叩いた。
「そうだそうだ、まだ自己紹介してなかったよね」
目深にかぶっていたフードを外すと、気持ちのいい笑顔をカイリに向けた。
「俺デミックス。よろしくね」
「あ…」
途端に、カイリの瞳に失意の色が浮かぶ。
デミックスの耳には、広大な海原に、夜空からはぐれたひとりぽっちの星が落ちる音まで聞こえた。
それほどカイリの絶望は深い。
目の前にいる黒い服の男が別人だとわかっているのに、どうしても心が騒ぐのを抑えられないのだ。
久しぶりに目にした生身の感情に懐かしさを覚えると同時に、デミックスはひどく申し訳なく思った。
「あーごめんごめん、よくわかんないけど泣かないでよ。ほんとごめんね」
すぐさま駆け寄って抱き締めてやる。
「やめて、離して!」
期待していた声は、少々刺があったものの、ひどく印象的な響きを持っていて、耳から離れない。
もっと聞けないだろうかと、デミックスはあれこれ頭を働かせる。
じたばたするカイリの背や頭を撫でてやりながらの頭の体操は、結構くたびれた。
「でもショックだよな〜。俺、もう立ち直れそうにないや」
これみよがしに溜息をつかれたので、カイリもつられて顔を上げた。
(あ、これもいいかも)
かわいらしい声も聞きたいが、こんな風に無防備な瞳も、悪くない。
「だってさ、カイリは俺にがっかりしてるし。えーえー、どうせ俺はご期待に添えない顔ですしぃ」
ますます意味がわからないと、カイリは困ったように、まゆをひそめる。
「ねえ、あなたはさっきから何を」
その隙を狙い、デミックスはまるで、おいしいものをほおばるように唇を合わせた。
「んんっ!?」
顔をそむけようとするのを片手で制する。
上向かせたまま下唇を舐め上げ、戸惑いの声をもらす中へ割って入った。
たまらず目を瞑ったカイリは、逃げ出そうと身をよじるが、力強い腕が背を押さえているので動きが取れない。
その間も唇を離されることはなかった。
舌先で上あごをなぞってやる度に背中を震わせるカイリに、デミックスはにこにことほほえんだ。
(へへ、やっぱかーわいいー)
新しい空気を求め開かれる唇は丁度良いタイミングで見逃してやり、すぐに塞ぐ。
おいかけっこをするだけでなく、図ったようにいたずらをするのも忘れない。
指の爪でかるく首筋をひっかいてやると、カイリは背をそらして刺激から逃れようとする。
「やっ、やめ、んぅ…っ」
ゆっくりと舌をからめてやれば、いくらでも声が聞けた。
ついうれしくなって力を込めてしまう。
腕の中におさまった体を守るように、デミックスは強くカイリを抱き寄せた。
やわらかい体が、腕の中で熱を帯びていく。消すのはあまりにも惜しい火種だ。
「う…ん…」
そろそろ立てなくなってきたようなので、名残惜しく思いながら押さえている力を緩める。
もたれかかってきた体をしっかり受け止めた。服越しにこすれるカイリの熱い肌がくすぐったい。
刺激が、ちょっと強すぎたかもしれないとデミックスは反省した。
体は何時間も続いたように感じるのだろう。視点の合わない瞳が熱を帯びている。
「大丈夫?」
荒い呼吸がしずまるのを待ってから、デミックスはやさしい声で尋ねた。
「…は、はなして、離して!」
罠にかかったうさぎが、必死に逃げようともがいている。
「だめだめ。さっきも言ったろ? カイリの面倒は俺が見るって」
もう一度唇を合わせながら、今度は中指の腹でうなじから背骨にそって下ろす。
「や…!」
火照った肌の上をデミックスの冷たい指がなぞる感触に、カイリの口から自分の意志と無関係の声がもれでた。

「よいしょ、っと」
ベッドがきしんだ音を立てる。
自分はあぐらをかき、相変わらずやさしい手つきでカイリを足の間に座らせ、力の抜けた体を支えてやった。
見た目よりも鍛えられた胸板に小柄な背中が寄りかかる。
欲しがっていない感覚をたっぷりと与えられ、紺碧の瞳が切なげに揺れていた。
体が熱くて苦しい。植えつけられた熱を冷ませないことが、カイリを更に苦しくさせる。
噛みしめられた唇は今にも裂けそうで、デミックスが親指を使ってこじ開けてやらなければ、血を流していただろう。
「んぅっ…」
前から責め立てられては、後ろに逃れるしかない。けれど逃れようとすればますます体を預けることになる。
自分の腕にすがり、逃げ道を作ろうと抗う姿はとても一生懸命で、ひどくみだらだった。
口の中を自由に動き回る親指を、赤ん坊がするように、カイリの拙い舌が追っている。
透明な唾液が口の端から溢れた。ゆっくりと流れるそれは、カイリの顎を伝い、喉を濡らす。
あたたかい舌が触れる感覚は、デミックスの奥底を言いようもなくうずかせた。
手助けのつもりで肩越しに細い喉を下から舐め上げると、
「ふぁっ…」
腕の中におさまっている体が小さく跳ねた。
抵抗する力がみるみる失われ、かすかに震えだす。
指を引き抜くと、カイリの唇とデミックスの指とを細い糸が結んだ。
そのまま首筋を撫で、鎖骨のくぼみへと下ろす。
くすぐるように指を動かしてやれば、カイリは困惑したうめき声を上げた。
「もうちょっと手伝ったほうがいい?」
小さな肩越しに尋ねると、駄々をこねる子供のように首を振る。
「いら、ない、いらない、よ…」
「えー、ほんとかなあ?」
紅潮した頬が目の前にあり、おまけに物欲しげな声を散々聞かされているのにとデミックスは不満そうだ。
それならと器用な指が素早く動く。
「なっ…!」
ワンピースのジッパーを下され驚く声を口で塞ぐと、デミックスは手加減せずに舌を吸い上げた。
断続的ないやらしい湿った音がカイリの耳にも届く。壁を隔てて聞こえているようでもあり、けれど舌先から体がしびれていくのを嫌でも感じる。
服の下に忍び込んだ大きな掌であばら骨の上をなぞられると、肺だけが締め付けられたみたいに苦しくて、カイリは呼吸がうまくできなかった。
「カイリって、どこもやわらかいんだね」
「…っ!」
カイリが息を呑むのがわかる。
熱い指が乳房を包み、力を強めまた緩くしながら、ごく簡単に刺激を与えてやった。
左胸から伝わってくる心臓の音は、カイリの体から発せられる熱に比例して鼓動を早くしている。
その張りつめた頂を人差し指と親指の爪でつまんでやると、耐えきれぬようにカイリが震えた。
「ほら、もっとないていいんだよ?」
反射的にカイリは首を振った。
「い、言いなりになんか、絶対、ならない、から」
息も絶え絶えになりながら、泣くものかと、繊細な睫がふるふると揺れる。
この強情さには、デミックスも舌を巻いた。
(年下なのに、しっかりしてるなあ)
それがまたかわいくてたまらない。
小さな体にまわした腕からは、黒いコート越しに高まった熱が伝わってくる。
すべらかな肌が熱に隅々まで赤く染まっているのを教えてやったら、どんな顔をするだろう。
「女の子は素直なほうがかわいいと思うけどなあ」
カイリの肩口から下腹部へゆっくりと手を伸ばし、少し湿っている下着の上から指で、とんとんと軽く叩いてやる。
途端にカイリは体を縮め、くっと唇を噛みしめた。
そんなに我慢されると、こちらは我慢できなくなる。もっともっと、鳴く声を聞きたいのだ。
ごく自然な動作で指が滑り込む。
「ん、やっ、やぁ、やだぁっ…!」
すぐに深くまでは入れない。
じっくりと入口を指の腹で撫でまわせば、甘い声がカイリに口から漏れ、充血した蕾をいじってやれば一際高い叫びが上がった。ぬるぬるとしたものが指に絡み始め、それをわざとらしく足の付け根にこすりつけてやると、俯き恥ずかしそうに鳴く。
表情が見られないのは嫌なので、ぐいと顎を持ち上げた。 濡れた紺碧の瞳は、物言いたげにデミックスを見返している。

楽器を扱うのと、似ていると思う。
カイリは、デミックスが望むままにさえずる、頑固で聞き分けの良い楽器だった。
薄く開いた唇は浅く途切れた呼吸を繰り返している。
「はぁ…、はぁ……」
抗う力はほとんど残っていない。
湯にのぼせた後のような背中は、デミックスの胸が支えてやらなければすぐに倒れこんでしまいそうだ。
愛しげに頬に口付けると、舌先で舐め上げる。
そんな些細なことでも、カイリはびくりと身をすくませ、目をぎゅっとつむった。
いちいち仕草がかわいくて、口元がゆるんでしまう。
「わかってるって。もっと手伝ってあげるよ」
長い指は易々とカイリの中へ侵入した。
巧みに動く指が火が灯ったように熱く湿った中をかき回し、溶かしていく。
初めはごくゆったりと、次第に動きを不規則にしていくと、カイリはかわいそうなほど身悶えた。
デミックスの両腕にすがり、いやいやをしている。
慰める為に耳朶を甘く噛み、ふっと熱っぽい吐息をふきかけると糸が切れたように力が抜けた。
付け根まで中指を沈めぐるりと擦ってやれば、また腕にすがりついてくる。
その度に、デミックスは根気よく、高まる熱に怯えるカイリを慰めてやった。
瞳から溢れる涙をすくい取ってやり、堅く張りつめた頂をほぐしてやる。
痕が残らないように爪を乳房に埋めれば、カイリは快い痛みに切なく喘いだ。
慣れない快楽をいたるところから与えられ、細い体は限界を迎えていた。しまっておけなくなった感覚が、爪先から口へとせり上がる。
「ふっ、やぁ…あ…あぁっ!」
窮屈な上に更に指を締め付けられても、デミックスはにこにこしながら見守っていた。
力なく垂れたカイリの頭を撫でてやり、頬にかかるさらさらした髪を指に巻きつける。
とろけた瞳が空を見つめていた。顔を横に向かせて、ついばむように唇を合わせる。
「さっきのカイリ、すっごくかわいかったよ」
戸惑った瞳が羞恥に染まる。伏せられた睫から、デミックスの腕に生まれたばかりの涙が落ちた。
様々な表情の中でもとび抜けてかわいいそれに、デミックスは喉が渇いているのに気付いた。
心を失ったノーバディの肉体が、耐えがたい渇きを訴えていた。
そして、喉の渇きを癒してくれる飲み水は、腕の中にある。
「俺も、手伝ってもらっていい?」
低く掠れた声で呟くと、カイリが苦しがるくらい強く抱き直し、潤んだ場所へ自身を押し付けた。
粘っこく擦れあう粘膜の音が二人の耳に木霊する。
途切れ途切れの吐息を食べるように口付けると、そのまま舌を滑り込ませ、デミックスは細い体を貫いた。

「いやっ……!」
どこにそんな力が残っていたのかと思うくらい、カイリは声を振り絞り抵抗した。
手伝ったとはいえ、上背のあるデミックスと小柄なカイリの体格差は、どうしようもない。
罪悪感を思い出しながら、とにかく痛みを逃してやろうとデミックスは至極丁寧に扱った。
小刻みに震える肌をいたわるように撫で、強張りを解いてやろうとする。
だがカイリは逃げようともがくばかりで、一向に落ち着かない。
「カイリ?」
デミックスはすぐ異変に気づいた。これは痛がっているわけではない。
繋がった場所は熱く絡み合っているのに、カイリの心は全く別のところにあるのだ。
「やだ、やめて、もうやめてっ……!」
すすり泣きはデミックスの耳を鋭く刺した。こんな声は聞きたくない。
(何考えてるんだよあいつ)
助けを求め涙を流すカイリは、とっくに大変な目にあっていたことをデミックスは理解した。
自分のしていることを余所に置き、胸の中で罵る。あんな無表情なくせにとんでもない奴だ。
「大丈夫、大丈夫だって。怖いことはなんにもさせないよ」
軽い調子だった口調が、打って変って、穏やかに言い聞かせる。
思いがけなくやさしい声に、ようやくカイリは暴れるのをやめた。
声の持ち主を、心許なげに瞳を巡らせ、探している。
壊れ物を扱う以上の手つきで、カイリを自分へと向き直させた。
こわごわと見上げてくるカイリに、精一杯の笑顔を見せる。作ったものだとしても、なんとかして安心させてやりたいとデミックスは思った。
「わたし、私…」
虚を衝かれ、それ以上は言葉にならない。
「…怖かっただろ? 安心してよ。俺がいるから、もう大丈夫」
感情を伴わないはずの目を、カイリは食い入るように見つめる。
不思議な翠の色が、不安を作り出す機関に強固な栓をしてしまい、カイリはそれ以上物事を考えられなかった。全くの無意識に、頼りがいのある肩に額を置き、黒いコートをきゅうっと握りしめる。
あんまりにもいじらしい姿に、デミックスは破顔すると、思い切りカイリを抱きしめた。
「ごめん、我慢できないや」
急ぎ足に謝ってから、細い腰に手を回し突き上げる。
濡れそぼったもの同士がこすれ合い、狭い中を隙間なく埋め尽くした。
隅に追いやっていた快楽を呼び覚まされ、咄嗟にカイリは両手で口を押さえる。
そうしなければ、魂がどこかへいってしまうと、心が悟らせていた。
「カイリ、カイリってば」
声をかけても頑なに首を振るばかりで、デミックスは嘆息する。
「それじゃ苦しいだろ?」
口を塞ごうと固まっている手をといてやり、記憶にある限りの良い感情を集めて唇を寄せた。
ただ、触れるだけだった。
紺碧の瞳が驚き見開かれる。
太い骨が形作る肩や腕と違い、静かに触れる唇はとてもやわらかいことに、カイリは初めて気付いた。
行き場のないあえぎに、デミックスは目を細めると細い腕を自分の首へ回してやる。
その抱え上げた体勢のまま、貫いているカイリの体を前後に揺すり、突き上げ、引き摺り下ろした。
「いっ、はぁ、ああぁっ…!」
悲鳴に近い嬌声に、デミックスの背中をぞくぞくしたものが駆け上がる。
繋がった部分に意識を集中させると、カイリはより乱れた声をあげた。
あいた手で上向かせると、甘い香りがする首筋に顔を埋め、ゆるく歯を立てる。
「―――っ!!」
背を反らせ、カイリは感じるままを表情にのぼらせた。
(うわ…)
色々な意味できつく絡みつかれ、こんな表情を見せられたら、余裕がいっぺんに奪われてしまう。
デミックスは小さく呻くと、壊してしまいそうなほど強い力でカイリを掻き抱いた。
繋がる場所から、 どちらのものかわからないくらい混ざったものが、とろとろと流れ出て、怪しく光った。




髪を梳いてやりながら、肉体に残った余韻を噛みしめる。
デミックスの身にはいつもより長く余情があった。
カイリのおかげだろうか。
腕の中で、胸板にぴったりと寄り添い耳を当てているカイリに視線を落とす。
何を聞いているのか訊ねてみたいが、これ以上疲れさせたくはない。
「俺のは、カイリのと違うんだけどなあ」
ふと思ったことを口に乗せると、意外にも顔を上げてくれた。
(ちょっとは仲良くなれたかも)
デミックスの指が前髪を分け唇を落とせば、カイリは満たされたように目を閉じる。
ねだられるままに口付けていると、しがみついているカイリが先ほどの話題を持ち出した。
「ね、違うってどういうこと?」
「えーと、見かけは同じだけど、中味は全然別っていうか」
「なかみ?」
カイリが首を傾げる。
「見ればわかるの?」
「それはやだなあ。開けたら俺、今度こそ消えちゃうし」
とんちんかんな説明に、カイリはしばし考え込んだ。
「ここを?」
裸の胸に指を這わせれば、あたたかさに眩暈がする。頭の奥がぼうっとして、ひどく重たい。
そっと、祈りを込めるかのように唇を寄せるカイリを、デミックスはぼんやりと眺めた。
「変なの。それって、すごく矛盾してるよ」
変な会話がおかしかったのか、くすくすと、小さな肩がふるえる。
(あ、笑った)
心の淀みがほほえませた瞳が、デミックスの見た、カイリの最初の笑顔だった。

 

  • 08.08.05