ホープの予想通り、ライトニングはここにいた。天井を支える大きな支柱の影に隠れてしまう場所に腰掛けているのが、いかにも彼女らしい。口元は自然とゆるんでしまう。
 人気のない教会は、当たり前だが昼間とは雰囲気がまるで違う。この世界の女神を模した像に注ぐ月光はほの白く、頬に感じる空気はしっとりと重い。だがその静寂は、ふしぎと人を拒まない穏やかさがあった。それは明るい日差しの下で見たしあわせな光景と無関係ではないのだろうとホープは思う。
「隣、失礼しますね」
 返事がある前にホープも長椅子に腰掛けた。
 昼間のライトニングは落ち着いた深い色合いのドレスと結い上げた薔薇色の髪に紅玉の髪留めをさし、女神以上に美しかった。何度も見惚れたのは記憶に新しい。しばしホープは無感情を装い見つめながらこっそり浸った。
 けれども今は、無造作に肩にかけた実用的なジャケットで台無しになっている。いかにもドレスと不釣り合いで、奇妙な組み合わせだった。それでなくても、この美しい人は、いつも目立つのに。
「着替えもしないでどうしたんですか? 電話は出てくれないメールの返信もくれないしで、けっこう心配したんですよ。でもよかった、きっとここにいると思ったんです。さあ帰りましょう、自覚はなくても疲れは溜まるものですから」
 子供に言い聞かせるような口調を、ライトニングがあまり好まないのをホープはよく知っている。やはり不満に感じたようで、返ってきた声音は少しとげがあった。
「探してくれと頼んだ覚えはないぞ」
「そうですね。でも探すなって頼まれた覚えもないですから」
 呆れたのか、ライトニングはホープからふいと視線を外してしまった。横顔に少し拗ねた様子があろうと、凜とした美しさは変わらない。それが仮面でもあると、ホープはよく知っている。
「いい式でしたね。セラさん、とてもしあわせそうで僕までうれしくなりました。スノウが羨ましいくらいです。ああ、万が一にも誤解させたらすみません、あくまでも一般論を述べてるだけですから」
 ぴくりと肩が動くのがおかしくて、笑い出してしまうのをこらえるのはちょっと大変だった。
「スノウは気が利かないやつだけど、そこはセラさんが上手く舵を取ってくれるでしょうし、なにも心配いらないですね。ライトさん知ってます? スノウって意外とのろけ話するんですよ、それはもうセラさんのことばかり。昨日なんか延々と耳にたこができるくらいで。のろけ上戸っていうんでしょうか、ああいうの」
 ほんの僅かだが、ライトニングが体を堅くしていくのがホープにはわかって、口調もますます明るくなっていく。
「おとぎ話はめでたしめでたしで終わりますけど、明日からはその続きなんですね。喜びも悲しみも分かち合いながら、手を取り合い寄り添って生きていく。いいですよね、夫婦になるって。ふふ、おとぎ話と違って喧嘩は多そうですけど」
 膝の上に置かれたライトニングの手が所在なげに握りしめられるところまで見届けてから、ホープは意識して少し声を落とした。ほんの少しかわいそうな気もしたが、これも全てライトニングに心を開いてほしいからだった。
「でも一つだけ心配事があるって言ってました。ライトさんが寂しがるんじゃないかって」
 実際はホープもいたく感心するほどに良い台詞だったのだが、都合により大幅に割愛させていただこう。
「ばかばかしい、いかにも酔っ払いの戯言だな」
「ご安心を。ライトさんなら心配ないって僕がきちんと言っておきましたから」
「当たり前だ。あいつはどうでもいいことに心を砕くより、セラを守ることだけ考えていればいいんだ」
 さも当然とばかりに言い切るわりには、まだ思案顔だ。
「……ちがうな、私が悪いんだ」
 ライトニングの心の仮面がぱきりと割れるこの瞬間が、ホープはなによりも好きだった。自分だけが見られる、美しい人の本当の素顔。
 軽く息をついたライトニングは、どこか晴れ晴れとした顔で女神像を見上げた。
「スノウはいつだって誰かの為に体が動いてしまうお人好しだ。だがそれがあいつの長所なんだ。自然と人を引きつけ引っ張っていく才能があって、気付けば頼ってしまっている。余計な心配をさせてしまっては義姉失格だな」
 なんてきれいな人だろう。なんてやさしい人だろう。なのに、どうして、スノウなんかを褒めるのだろう。
 単純に心底むかつく。けれど今だけは我慢しなくてはならないとホープは堪えた。
「おまえもだ、ホープ。私の心配ならしなくていい。寂しくないと言えば嘘になるがセラはもう大人なんだ。いなくなって寂しいだなんてどちらが姉かわからないからな。連絡を無視したのはその、悪かった。区切りをつけたかったんだ、気持ちを整理したくてーー」
 肩にかけたジャケットを直しながら、ライトニングは続けた。
「あまりにも長かったからな。果たせなかったことを果たしたらどんな気分なのか。想像したこともなかったし、顧みる余裕も私にはなかった。おかしいだろう? いくらでも時間がある、追われる必要のないこの世界でも、だ。根本的に私は変わっていないと気付いたのは式の終わり頃だったよ。その、なんというか、うろたえたんだ。セラを守る役割はスノウに託した。あいつなら大丈夫だとよく分かっている。私の使命は終わった」
 ごく静かな、しかし暖かい瞳で、ホープはライトニングを見つめ続けた。
「ふふ、使命なんて大げさだな。この世界がどんなに平和か、神に支配されない自由を沢山見てきたよ。私も、もはや隠世の解放者ではない。全てが自由なんだ。その自由が……怖くなった」
 話を遮るつもりはなかったが、ホープはライトニングの肩を引き寄せていた。まずいなあ、とホープは胸の底で思う。想像以上にこの人にめろめろで、意識せずに体が勝手に動いてしまうのだ。
「……ずいぶん大胆な真似をするようになったな。昔はもっと可愛げがあったのに」
「昔じゃありません。気が遠くなるほど昔の、僕がまだバカだった子供の頃のことですよ」
「いいや、おまえはつい最近まで子供だった。忘れたことはないぞ」
「残念ながら、僕の一生のお願いを聞いてくれたこの世界の神様のおかげであなたより年上です」
 ほらね? とライトニングの手の上に重ねる。長く細い指を覆える男の手が、ライトニングの手を覆う。少し冷たくなっている指先にホープが指を絡めようとすると、ライトニングが身じろぎした。
「き、教会だぞ、少しは自重しろ」
「ええ、教会ですよ? 祈りを捧げ愛を誓う場所です。だからこれくらい許してくれますよ、この世界の神様は」
「詭弁もいい加減にしろ。おまえの手つきは微妙にいやらしいんだ」
「心外だなあ、至って普通のつもりですよ。あなたの手を握る場合に限ってなのは認めますけど」
 ちょっとした押し問答をしていると、女神像の後ろにあるステンドグラスがぎしりと鳴った。季節外れの突風が訪ねてきたのだろう。
 先に諦めたのはライトニングだった。とん、と最初からぴったり合うかのように成長したホープの肩に頭を預けた。指と指が絡んだ二人の手を、ぼうっと見ている。
「ーーまだ続きがあるんだ。聞いてくれるか?」
「もちろんです。ライトさん、どうして自由が怖いなんて思ったんですか?」
 立場が逆になったな、とライトニングはか細い声で笑った。
「自由はいい。どこへでも行ける、仲間にも会いにいける、あの世界全てが過去になって、はるか遠くの思い出に変わって」
 小さな爪だなあと指を絡ませながらホープは思った。
「思い描いていた夢が現実になるとは不思議だな。スノウとセラの笑顔があんなにまぶしいと感じたことはなかったよ。ああ、こいつならセラをしあわせにしてくれる、守ってくれる。…同じ話を繰り返して済まないな」
「大丈夫ですよ、ライトさんなりに整理しながら話しているのがわかりますから」
「……ああ」
 少しだけあごを上げて、ライトニングは目を閉じた。長いまつげに注ぐ月光が作る陰影は、彼女に完璧な美しさを与える。
「これで私の役目も終わった。そう感じたとき、自分が立っている場所がわからなくなったよ。そうだな……草一つ無いグラン=パルスに放り出された感じだ。右も左もない、足を踏み出す方向も見出せない。そもそも私はセラを守るためだけに生きてきた。それを取り上げられたように感じてしまったんだ。まったく、子供じみて嫌になったよ」
 ジャケット越しにライトニングが少しだけ震えているのがわかる。でもまだ抱きしめてはいけない、まだ彼女の言葉を全部聞いていないと、ホープは必死に抑えた。
「だから一人になりたかったんだ。おまえを無視したのは本当に悪かった。だが一人で向き合わなければいけないと思ったんだ。この惨めな気持ちは自分で片付けるしかないんだと。それにこの世界の神はなんでも許してくれるんだろう?」
「ええ、そういう解釈もありますね」
「万ある解釈の一つでも構わないさ。吐きだして、赦しをもらいたかった。わかっているんだ、セラとは今生の別れをしたわけではないし、会おうと思えばいつでも会える。仲間にだって会いに行ける。だがどうしても気分が晴れないんだ。家に帰っても、セラは、もういない」
 ライトニングの声が、ほんのわずかに震えた。
「だから願いに来たんだ。誰も、私を一人にしないでくれと」
 もう堪えきれなかった。ぎゅっと抱きしめ、しなやかな背中を励ますようにぽんぽんと叩くと、ライトニングがくすくす笑うのが耳元で聞こえた。
「驚いたな、もう願いが叶った」
「あなたの願いならいくらでも叶えてみせますよ」
「ずるいな、私は。本当はわかっていたんだ。おまえが迎えに来てくれて、この胸に澱む感情を吐き出させてくれると」
「その相手を僕に選んでくれるかは正直半信半疑でした。だからほっとしてます。ライトさんは責任感が強いから一人で溜め込んでしまうんじゃないかって」
「買い被りすぎだ。私は、人に誇れるほど強い人間じゃない」
 ライトニングも、ゆっくりとホープの背に手を回す。
「おまえが来てくれてよかった。一度でいいから誰かに甘えるのを体験してみたかったんだ」
「珍しいですね、ライトさんがそういう冗談を言うなんて」
「そうか?」
「そうですよ。子供扱いしても怒らないし」
「言っただろ、誰かに頼るというのが私にはわからないからな。そうだな、案外悪くない」
 ゆっくりと背を撫でられながら、体を預けてくれるライトニングからは、ほんのりとあまい薔薇の香りがする。
 実を言えばもっといろんなことをしたくなったのだが、ホープはひとまず我慢を選んだ。それこそ後回しにしていいことだ。
「セラさんが生まれたときから、あなたはお姉さんだったから?」
 軽い力で、ライトニングはホープの胸を押した。美しい瞳が驚きに満ちている。
「どうして」
 前の世界で病に伏した彼女の母が残した言葉はライトニングしか知らないはずだ。そういう驚きを、ホープは安心させるように笑って受け止めた。
「落ち着いて、説明させてくれますか。覚えているでしょうけれど、僕は過去、神の傀儡でした」
 ああ、としっかり頷いたライトニングを確かめてから、ホープは続けた。
「古い神は僕の体を器に相応しくする為に何度も作り直しました。けれど心だけは作り直せない。だから僕の意識だけは残り、わかったことがあったんです。古い神は、花嫁を求めていました。美しく気高く、魂すら混沌にも浸食されない新しい花嫁を。それはあなたでした、ライトさん」
「らしいな。生憎とこちらから破談にさせてもらったが」
「ええ、ざまあみろってやつですね。でもね、長い間心だけでいた僕には嫌というほど理解できました。あいつのライトさんに対する執着は凄まじさすらありましたから。まあ、負ける気なんてこれっぽっちもなかったですけど」
 ライトニングの白い頬にほんのりと朱が乗る。
「そんな恥ずかしいセリフ、一体どこで覚えてくるんだ」
「まあまあ、後でもっと…っと、今は脇に置いておきましょう。ともかく一方的に作り直されるばかりの僕でしたが、一つだけ得たものがありました。神のライトさんへの執着は、あなたが生まれた頃にまで遡ります。あちらの世界で産声を上げたあなたが初めに見た手術台の白い光すら神は観察していました」
「まさか」
「そのまさかです。あなたが初めて寝返りを打ったとき、拙くしゃべり出したとき、よろけながら歩き始めたとき、ライトニングと名乗ることを決意したと」
 むぐ、とホープは息を詰まらせる。耳まで真っ赤なライトニングが、両手でホープの口を塞いだからだ。
「やめろそれ以上はやめてくれ頼むひざまずけというなら喜んでする手料理も作ってやる膝枕もする花束も受け取るから」
「すみません、あなたを混乱させるつもりはなかったんです。あなたの全てといっても神は心までは理解できないんですから、あなたの思考まではわからないんですよ。ただ観察するだけで」
 さすが鍛えている分、ライトニングの手を剥がすのはちょっと大変だった。相応しい男になろうと鍛えておいてよかったと、ホープは心の中で安堵する。そりゃあ、スノウに追いつけないのは癪だったが、個人差なのだからと割り切っていた。大事なのはライトニングの背中を守れるほどになったかどうかだ。
「全然大したことじゃないと思いますよ、ただただ眺めるだけであなたの決意や悩みなんかはこれっぽっちも神は理解できない。唯一哀れだと思いましたよ。花嫁に焦がれている自分の感情すらわからないんですから。ちょ、ですから手は抑えて、余計な話をしたのは謝りますけど本筋はここじゃなくて、ほら落ち着いて、とりあえず深呼吸してみてください。はい、吸って、はいて」
「このバカ落ち着けるか!」
「ご両親もあなたの成長を見守っていた。それ以下だったあいつが許せないんですか?」
「神なんかはどうでもいい、お前も見たのが問題なんだ!」
 やっぱり気付かれてしまうか、とホープは古い神を心の底から恨んだ。
「あはは、わかっちゃいますよね。ここまで言えば」
「当たり前だ! よりにもよっておまえに、おまえにだけは知られたくなかったのに……!」
「どうしてです?」
「恥ずかしいからだ!」
「僕だって子供の頃恥ずかしいところいっぱい見せて散々ご面倒をおかけしたじゃありませんか。はは、穴があったら入りたいっていうけど思い返すとほんと恥ずかしいですね。なので、おあいこってことで勘弁してくれません?」
「いいだろう、取引だ。お互いに思い出したくない過去は忘れて二度と蒸し返さない」
「あ、ちょっと待って下さい。まだあなたに伝えたいことが」
「……昔の私のことだったら承知しないぞ」
「違いますよ、違いますってば。安心して聞いて下さい、だからその手を下ろしてくれませんか」
 ね? と目でなだめると、ライトニングはしぶしぶといった様子で腕を組んだ。好意は何度も伝えてきたが、これを言うのは初めてで、さすがに緊張が体に走る。
「理想は父親かお兄さん、次点で叔父または年上の従兄弟、それもだめなら遠い親戚でも構わない」
「……?」
「あなたの家族になってあなたを守れる立場になりたかったんです。僕が考えていたのはそればかりでしたよ」
 今更言ってもどうにもならないことなのは百も承知だったが、ホープは続けた。
「あなたが一人でがんばらなくていいように支えて、頼ってもらいたかった。それができるのは家族だけでしょう? 十四だった僕に出来るはずないとわかっていても、過去に戻り、あなたの家族になれたらと苦しくてもがきました。もっと初めから、あなたの隣にいたかったと」
「気にするな。ソーシャルワーカーは面倒見がいい人だったし、セラは自力で奨学金を獲得してくれたからあの頃に別段困ったことはなかったよ」
「ええそうですよね知ってましたライトさんはそういう返しをしてくるって知ってましたライトさんですもんね!」
 一人突っ込みも慣れたが、こんなときばかりは本当に困る。ホープはむやみやたらと叫び出したい気分だった。
「あの、時々疑問に思うんですけど、ライトさん、僕が今いくつか知ってますよね?」
「じゅう…二十七だったか」
「ほら今十四って言いかけた! 二十七ですよ、二十、七! あなたより年上になったんだっていつになったらわかってもらえるんですか!」
「まあ落ち着けホープ。冗談だよ、ちょっとからかっただけだ。守ろうと誓ったお前の印象が強すぎるせいなんだ。第一、年下が年上になるなんて体験はごく稀だからな。ときどき混乱するらしくてな、すまない」
 謝りながもほんの少しいじわるな笑い方をするライトニングは、やっぱりきれいで見惚れてしまうから、怒るに怒れない。
「なるほど意趣返しというわけですか。ライトさん、やっぱり変わりましたね」
「ああ、冗談も言えるし通じるぞ。解放者としての経験も大きかったな」
「なら、僕の言いたいことも伝わりましたか?」
「……」
 ライトニングは目を細め、じっとホープの瞳を見つめる。さっきのはやはり冗談で、この人は自分を男として認識しているとホープは悟った。それがあまりにもうれしくて、他の感情など一切沸かないものなのだとも。
 すっときれいな指が伸びてきて、ホープの前髪をくすぐるようにすいた。幼子にするようなやさしい仕草だった。
「私は、今、隣にいるおまえに家族になってほしい」
 離れようとした細い指を掴むと、ホープは力加減など考えずにライトニングを引き寄せていた。
 やわらかい頬に手を添え、唇を合わせる。やわらかくてあたたかい唇が何か喋ろうとした隙間から舌を滑り込ませる。びくりとライトニングの体が震えたが、やめる気はなかった。逃げようとする舌に自分の舌をからめ、小さな歯を裏からなぞり、有無をいわさず唾液を流し込む。こくりとライトニングの喉が鳴った音を耳が拾ったとき、ようやく唇を放してやった。肩を揺らし新鮮な空気を吸い込んだライトニングにもう一度キスしようとしたが、きれいな指が伸びてきて、ホープの額を軽く押しやった。
「あの、僕まだ物足りないんですけどだめですか?」
「冗談じゃなかったら次は殴るぞ」
「あはは、じゃ、冗談ってことにしておきます」
 額をさすりながらホープは唇を親指でぬぐった。甘いルージュが指にも移る。
「ねえライトさん、いろいろぶっちゃけますけど、僕はセラさんがうらやましくて仕方なかった。生まれたときからあなたの家族で、あなたにとって一番特別な存在なんです。比べる事自体がお門違いだとわかっていてもうらやましかった。おまけにスノウなんかがあなたに認めてもらえるし。僕だってあなたの隣にいたいとずっと思っていたんですよ?」
「それを言うなら私だって背中を守ってくれるのはおまえしかいないと思っていたさ」
「それじゃ足りません、全然足りないんですよ。今は感謝の気持ちではちきれそうです、やっと僕もあなたの特別になれるんですから。これでもセラさん達の式が終わるまではとずっと我慢してたんですよ? まずは現状以上の恋人同士、それから婚約者期間を満喫して、仕上げに」
 ぎゅっとライトニングの手を取ったホープのまなざしは真剣そのものだ。
「一緒に式を挙げましょう。この世界の神に永遠の愛を誓い、僕とあなたは家族になる。あなたの隣を、僕にください」
「……まいったな、これから先は一人きりでいられなさそうだ」
「今更気付いたんですか? もう遅いですよ、覚悟して下さいね」
「頼むからたまの一人旅くらいは許してくれ」
「その点については熟慮と話し合いが必要ですね。もうあなたの隣は僕のものなんですから」
 二人の影が再び重なるのを、白い月の光だけが見ていた。
 晴天のある日には、またしあわせに包まれた光景が見られるだろう。